悪人

2010年に公開された映画「悪人」。 吉田修一の原作を読んでいたのでストーリーは分かっている状態で、正直なとこ […]

2010年に公開された映画「悪人」。

吉田修一の原作を読んでいたのでストーリーは分かっている状態で、正直なところあまり期待をせずに映画館へ観に行きました。

何しろ公開当初、いや公開以前からとにかくマスコミで「話題作」「観るべき1本」「役者が素晴らしい」と騒がれていたのであまのじゃくな私は却って敬遠したい気持ちになっていたのです。

けれど、原作が面白かったこともあり、興味本位で観に行ってみることに。

結果的に良い意味で期待を裏切られました。

起承転結のすべてを分かっているはずなのに、観ていてドキドキする感覚は初めての経験。

賞賛されていた妻夫木聡と深津絵里の演技はもちろんのこと、樹木希林や柄本明、満島ひかり、岡田将生など脇を固める俳優陣も素晴らしかったです。

まるでドキュメンタリーを観ているかのような錯覚に陥るほどのリアルな演技でした。

どの登場人物も身勝手なところや悲しいところがきちんとあり、人間味に溢れているのです。

そういう意味でも「悪人」というタイトルも本当も見事だと思います。

妻夫木聡の何だかモヤモヤして鬱屈した感じとか、深津絵里の薄幸な雰囲気、柄本明のやりばのない悲しみや怒り、樹木希林の戸惑いや不器用さ…

どれも観ていてイライラしてしまうほどです。

おそらく俳優の演技力もさることながら、李相日監督の演出が良いのではないかと思います。

そして、福原美穂と久石譲の音楽がまた泣けます。

曲も歌声も絶妙に映画にマッチしています。

つまり役者もスタッフも素晴らしい作品なのです。

最近の邦画はマンガが原作となっているものが多いこともあってなのか、やたらと登場人物がかっこよすぎたり、「感動させよう!」「泣かせよう!」という意図のもと作られたものが多いように感じています。

「悪人」も犯罪者となった主人公が恋人と逃避行をしたあげく、捕まってしまうというともすれば御涙頂戴の単純なストーリーに描かれても不思議ではありません。

ところが、丁寧にひとり一人の人物に息を吹き込み、一つひとつの台詞に意味を込められて作られたことで深い作品になったのだと思います。

ストーリーそのものや映画自体にも感動しましたが、こんなにきちんと映画を作っている人たちがいるのかということにも感動した作品です。